熱く甘く溶かして
 家に着くなり、恭介はソファに座り込む。智絵里はその隣に座り、彼の方へ向き直る。

「……智絵里を辛い気持ちにさせるかもしれない。それでも聞く?」
「それによって恭介が既に辛い思いをしてるんでしょ? それなら尚更聞かないとおかしい。私のことで恭介が辛くならないでよ」

 智絵里はそう言ってくれたが、やはり不安は消えなかった。でもこれは二人で乗り越えるべきなのかもしれない。

「先週の火曜日、早川から突然呼び出されたんだ」
「早川って、三年の時に同じクラスだった? そういえばさっき話に出てきた……」
「そう。そこで突然、高三の時の智絵里の話になったんだ。俺は何も話してないのに智絵里が外部の大学を受験したこと、三学期は卒業式にしか来なかった話題になって……智絵里に何かあったんじゃないかっていう話になった」
「……なんで早川くんが?」
「あいつ今刑事なんだ。どうも智絵里と同じような被害を受けた子が何人かいるらしくて、でもみんなそれを訴えなかった。でも今年被害届を出した子が勇気を出して、捜査が始まることになったんだって」
「……ちょっと待って……。他にも被害者がいた……?」
「あの男は毎年犯罪を繰り返していたんだよ」

 智絵里は凍りついた。私だけじゃなかった。

「私のせい……? 私がちゃんと訴えれば、被害が続くことはなかった?」
「早川は時効を迎えたものもあるって言ってたんだ。智絵里の場合、今年が時効。ということは智絵里が被害を受ける前からあいつは繰り返していたことになるんだよ」

 自分と同じ境遇の子がいることが辛い。その子たちは今どう生きているんだろう。ちゃんと前を向けているのだろうか。
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