熱く甘く溶かして
 あの後、どこを探しても智絵里を見つけることは出来なかった。

 会社に戻った恭介は、力が入らず椅子に座ったまま動けなくなる。

 やっと見つけたのに、その途端に拒絶されてしまった。ただ勤務先がわかったことは収穫だった。

「ほい、お疲れ様」

 松尾は恭介に缶コーヒーを渡すと、隣の席に座った。

「お前と畑山ちゃんって知り合いだったの?」
「まぁ……高校の時の同級生です」
「もしかして今朝言ってた友人って……」

 恭介は頷く。隠してもどうせバレるだろうし、ただの友人なら隠す必要もない。

 缶コーヒーを開けて一口飲むと、恭介は肩を落とした。

「高二、高三と同じクラスで仲が良かったんですよ。でも三年の終わりくらいから急に様子がおかしくなって、卒業したら音信不通です」
「付き合ってたわけ?」
「そういう恋愛感情はお互いなくて、純粋に友人の一人って感じ」
「でも確実に畑山ちゃんが、お前の好みの原点だよな。だってそれ以外にいないだろ。でも驚いたよ。お前の好みだろうなぁとは思ったけど、まさか本人だとは」
「いや、だから恋愛感情はなくて……」
「何言ってんだよ。友達から始まる恋なんていくらでもあるんだぞ。むしろその方がお互いを知ってるから付き合いやすいらしい」
「……いやだから、なんで付き合う前提なんですか」
「わかんないけどさ、居心地が良すぎて、恋愛感情まで到達しなかったんじゃないかと思ってさ。今ならそういうの抜きにして考えられるかもよ。どうする? 日比野さんに頼んで、飲み会とか開いてもらう?」
「あはは。たぶんあいつ来ないですよ。そういうの好きじゃないと思うし」
「……お前、すごいな。そうなんだよ、いくら誘っても反応なし」

 さすが智絵里。相変わらずなんだな。それを聞いて恭介は少し安心した。

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