熱く甘く溶かして

「おぉ、番犬篠田じゃないか。相変わらず畑山の世話してるのか?」
「そうなんですよ。実は俺たち結婚するんです。だからこれからは一生智絵里の忠犬決定で。智絵里を守るのが俺の任務みたいなやつですね」

 恭介が言うと、杉山の顔に怒りが込み上げるのがわかった。なんだこいつ……。まさかこの期に及んでまた智絵里に何かしようとしてたのか?

「えーっ! 二人って結婚するの⁈ さっき言えよ、それ! よし、また乾杯だ〜!」
「先生もせっかくだし、あっちで飲もうよ〜」
「いや……俺は……」
「いいからいいから! 遠慮すんなって!」

 杉山は何か言いたそうにしていたが、皆に奥のテーブルに連れて行かれてしまった。

 ホッと力が抜けたのは恭介と智絵里だけではなかった。横で睦月も肩を落とす。

「むっちゃん?」
 
 恭介の腕に抱かれたまま、智絵里は睦月を心配する。そこへ早川がゆっくり近付いてきた。

「蒔田、大丈夫か? 悪かった、出て行けなくて」
「う、ううん、大丈夫。仕方ないよ、不意打ちだったし……」

 睦月は顔を上げるが、青ざめたままだった。

 奥のテーブルでは楽しそうに騒いでいる。智絵里が恐る恐るそちらに目をやろうとしたが、恭介に遮られてしまう。

「智絵里は見なくていいから。このまま帰ろうか。酔ったっていう言い訳も出来たし」
「でも……」

 恭介は睦月を介抱する早川とアイコンタクトをとると、智絵里の荷物を持って抱き上げる。

「悪い。智絵里がぐったりだから、俺たち帰るわ」
「えーっ、来たばっかじゃん!」
「未来の花嫁を守るのが番犬の務めですから。じゃあまたな」

 智絵里は恭介に抱きついたまま目を閉じた。何も見ないよう、何も見えないよう……。

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