熱く甘く溶かして
* * * *

 会場を後にした恭介は智絵里を下ろすと、彼女の手を取り、背後の様子に気をつけながら駅の方へ歩き出す。

 追いかけては来ないみたいだな。まぁあれだけ囲まれてたら、振り払って出て来るのはさすがに無理だろう。

 恭介は智絵里を心配そうに見つめた。下を向いたまま、一言も発しない。怖かったよな……そう思い、智絵里の肩を抱く。

 それからすぐにメールが届き、恭介の足が止まった。

「智絵里、早川が少し話が出来るかって言ってるんだけど……断わろうか?」
「ううん、大丈夫。何も話せなかったもんね」

 そこで智絵里はハッとする。

「どうしよう……むっちゃんの様子がおかしかったのに、あのまま置いてきちゃった….」
「それは大丈夫。お前と同じ酒を飲んだって言って早川が連れ出したから」
「……なんでむっちゃんが早川くんに連れ出されるの?」
「それは……」

 明らかに何かを隠している態度だった。

「……わかった。早川に会いに行こう。そこでちゃんと話すから」

 恭介はタクシーを止めると、早川との待ち合わせ場所へと向かった。
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