熱く甘く溶かして
* * * *

 智絵里は会社が入るビルから逃げ出し、隣のビルの中にある喫茶店にいた。レトロな雰囲気が人気で、昔からの常連客が長時間入り浸っている。

 アイスティーを頼み、年季の入ったソファに体を沈める。まだ心臓がバクバク鳴っている。

 まさかこんなところで恭介と再会するなんて思っていなかった。私が唯一後ろめたさを感じている人物が彼だった。

 恭介のことだから、きっとまた来るに違いない。だって極度の心配性のお節介焼きだから。イヤイヤ言いながら、構ってくれるからつい頼りにしてしまっていた頃が懐かしい。

 ただ《《あの日》》だけは頼ることが出来なかった。そして逃げ出してしまった……。

 きっと恭介を傷付けた。それがわかっているからこそ、会ってはいけないと思うの。

 その時、智絵里のスマホに日比野からのメッセージが届く。

『二人とも帰ったから戻っておいで』

 智絵里はスマホを握ったま下を向く。

 恭介、大人になってたなぁ……。私の心はあの日で止まったまま。今も闇の中にいるのに。
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