熱く甘く溶かして
智絵里は慌てて窓の外に視線を移す。恥ずかしくて、恭介の顔をまともに見られない。
「えっ、初耳なんだけど」
「当たり前よ。誰にも言ったことないもん。こんなこと、一花にだって話したことない」
誰かが好きな人を好きになるのは良くない。ましてや後から気になり出したのなら尚更だった。だからあの時は『カッコいい人』くらいの気持ちで抑えていた。
でもそんな軽い気持ちが続くことはなく、カッコいい人は校内にたくさん現れる。接点のなかった恭介へのときめきもいつのまにか薄れて、いつしかカッコいい同級生の一人になってしまった。
それが変化したのは高校二年の夏休み。一花のことがあってから、お互いの本性が気に入って距離が近付いた。
この時の恭介は、『私の親友が好きだったけど失恋してしまった、ちょっとかわいそうな同級生』で、恋とかとは無縁の感情だった。でも不器用だけど根は良い奴ということを、会うたびに知っていった。だから友達としての地位を確立出来たんだと思う。二学期からは一番心の許せる男子になっていた
「そう考えるとさ、俺達って何もなければ絶対に交わることがなかったよな。雲井さんがいなければ、ほとんど話すことはなかったんじゃないかな。ただのクラスメート止まり」
「……そうかもしれないね。あの夏休みの出来事はすごく特別だったと思う」
あの日以降、恭介に呼び出されて動物園や水族館、運動部の試合、図書館での勉強などに付き合わされたけど、意外と楽しかったの。
「雲井さんに感謝だな」
「そうだね。でもそうすると松尾さんにも感謝じゃない?」
「……最近浮かれ過ぎて忘れてた。仕方ないから何かお土産でも買っていくか」
智絵里がクスクスと笑う。自然と見せてくれるようになった笑顔に癒される。
「……こういう言い方はおかしいけど、俺さ、雲井さんを好きになって良かったって思ってる。じゃなきゃこうして智絵里の隣にいられなかっただろ?」
「……なんかいろいろ気になるけど、今は私のそばにいるから良しとする」
親友にヤキモチを妬いたなんて、絶対に口が裂けても言えない。