熱く甘く溶かして

「バカだなぁ、素直にヤキモチ妬いたって言えばいいのに。何? 今までの女関係を知りたいの? 全部洗いざらい吐いてもいいけど」
「そ、それはやめて! 気になって旅行どころじゃなくなるから!」

 本気で抵抗する智絵里が面白くて、恭介は吹き出した。

「ごめんごめん。そんなことを気にしてるとは思わなかったからさ」

 恭介の笑顔を見るとホッとする。智絵里は恭介の首に腕を回してキスをする。

「……私の初めては(けが)れてしまってるけど、恭介が幸せな記憶でたくさん上書きしてくれるから、今はほとんど思い出さなくなってきてるの……。恭介と再会するまでね、自分の中に人を好きになるとか、ましてやヤキモチを妬くなんて感情が存在するとは思わなかった……」

 恭介は愛おしそうに智絵里の首元や耳元に口づける。智絵里の口から甘い吐息が漏れる。

「……初めてが恭介だったら良かったのにな……」
「……そう思えばいいんだよ」
「えっ……」
「……こんなことを言って傷付けたらごめんな。でも記憶なんて曖昧な部分だらけだと思うんだ。忘れるのは難しいかもしれない。でも……こうやって肌と肌が触れ合う感触、キスで絡み合う感じとか、二人が繋がった時の息遣いとか、智絵里にとっては俺との記憶しかないだろ? それならそれでいいじゃないか。智絵里の初めては全部俺だよ。俺が智絵里の初めての相手なんだ。そうやって頭にも体にも心にも刻み込めばいい」
「私の初めては全部恭介……」
「そうだよ。智絵里は汚れてなんかないから。勘違いするなよ。昔も今も、智絵里はずっとキレイなままだから」

 恭介の手が智絵里の頬に触れ、キスをした。

「ヤキモチ妬かせるわけじゃないけど、俺は確かに付き合ってきた女性がいて、それなりに関係も持ってきた。そんな俺の方が智絵里より余程汚れてると思わない?」
「……うん、思う」
「……だよね。智絵里ならそう言うと思ったよ」

 苦笑いをする恭介を、智絵里は泣きそうな顔で抱きしめる。

「ありがとう……大好き……」
「うん……で、元カノ情報はいらない?」
「……いらない。むしろ記憶から抹消して。私の前でその話題に触れたら口きいてやらないんだから」
「あはは、それは困る!」

 笑いながら、恭介の手は智絵里のシャツワンピースのボタンを一つずつ外していく。

「さて……せっかく部屋に露天風呂が付いてるし、一緒に入ろうよ」
「……うん、入りたい……」

 智絵里も恭介のシャツにボタンを外し始めた。

 恭介に触れたい。恭介にだけ触って欲しい。この人しかいらないって、私の全てが叫んでる。
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