熱く甘く溶かして
対峙
 ビル内がざわついていることに日比野は気付いていた。それが智絵里によるものだということも。

 あんなに男性に拒絶反応を見せ、全く関わろうとしなかった智絵里の左手の薬指に、なんとダイヤの指輪が輝きを放っている。

 当の智絵里はといえば、妙にソワソワしては指輪を見てニヤける。智絵里のこんな姿を見たことがなかった日比野は、笑いを堪えるのに必死だった。

「智絵里ちゃんってば、にやけ過ぎ」

 日比野が言うと、智絵里は顔を真っ赤にして、両手で顔を覆う。

「す、すみません。浮かれ過ぎてますよね……」
「別にいいんじゃない? それにしても篠田くんと再会して三ヶ月? なんかトントン拍子だよねぇ」
「私も信じられないです……」
「友達から恋人だもんねえ。どう? 友情から恋ってアリ?」
「……私はむしろアリでした。だって私みたいな面倒くさい性格、最初から理解してもらえてたら隠す必要もないので」

 そう言ってから智絵里は指輪を大切そうに撫でる。

「正直、私は結婚しないで、独身のままこの会社に居座るって思ってたんですけど……」
「たった三ヶ月で人生変わっちゃったね」
「……ただ気になることがあって……」
「えっ、なになに?」

 先ほどまで嬉しそうにしていた智絵里の表情が一気に曇る。

「……このビルの中に恭介の元カノがいるみたいなんです……」
「……智絵里ちゃん、知らぬが仏よ。忘れなさい」

 日比野に背中を叩かれ、智絵里は渋々頷いた。 

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