熱く甘く溶かして
 恭介が浴室から出ると、智絵里は既にベッドの中にいた。疲れたのかな……。そうだよな、いろいろなことがあり過ぎた。

 冷蔵庫からペットボトルの水を取り出すと、そのまま寝室に向かい、ベッドに腰掛けた。

 今日の出来事を振り返り、本当はどうするべきだったのかを考える。智絵里が言った通り、俺はきちんと伝えるべきだったんだ。でもあの時は冷静になれなかった。

 その時、恭介の腰に智絵里の腕が回される。ハッとして智絵里を見ると、目を閉じたまま布団にくるまっている。

「……起きてた?」
「……あんなことがあったのに、そんな簡単に眠れるわけないじゃない……」
「……だよね」

 恭介は自分の腰に回された智絵里の手を、何度もに何度も握る。不安を隠しきれず、何か答えを求めているよう仕草だった。

「……恭介は考え過ぎなのよ。極度の心配性だし、しかも一人で考えて決めちゃうし……。これからは二人なんだからね……ちゃんと話し合うって約束して」

 智絵里の方が辛かったはずなのに、俺の方が諭されるなんて……自分の不甲斐なさに呆れる。

 智絵里がゆっくり起き上がり、恭介の背中を抱きしめた。

「……あのボイスレコーダー、お守りみたいなものとしてカバンに入れたんでしょ? まさかこうなることまで想定してた?」
「何かあった時のためにとは思った。もしあいつが現れたとして、智絵里に近付かせないようにするための証拠にしたかったんだ。でもまさか警察に提出することになるなんて……それこそ智絵里を傷つける結果になった……」
「そうだね……人に知られたくなかった過去が、ここに来て少しずつ明らかになっている……。私のこの先の生活がどうなるのか本当は怖くて仕方ない……」

 そこまで話すと、智絵里は恭介の腹部を力いっぱい締め上げた。
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