熱く甘く溶かして

「智絵里……嫌なら話さなくていいんだよ」
「ううん、今の気持ちを吐き出したい……。恭介の方こそ、嫌なら耳を塞いで」
「何言ってんの。ちゃんと共有しようって決めただろ?」

 智絵里はそっと顔を上げる。恭介は真剣に智絵里の話を聞いていた。

 あぁ。この人で良かった……智絵里は心からそう思う。

「さっき聞いたらね、私の翌年に被害に遭った子は相談してるんだって。ということは私の後輩だった誰かが被害に遭ってるっていうことよね。みんな怖くても、声を上げてるの。一人じゃ小さい声だけど、みんなが集まって声を上げれば大きな声になる」
「うん、そうだね……」
「私が提出した証拠は思い出したくない負の記憶だけど、この日のために残してあったと思えば、我慢して良かったって思える」
「すごいじゃん、智絵里……なんかカッコいい」
「……恭介のおかげだよ。そう思えるように私にたくさん愛情を注いでくれたから、強い気持ちを持てるようになったの」

 口では強いことを言っているのに、智絵里の目からは涙が溢れ出る。またこの事実に向き合わなければならない不安、思い出すことの怖さ、でも終わりにできるかもしれない喜び。一言では表せない感情が湧き出る。

 恭介は智絵里の肩を抱き寄せ、頭と頭を合わせる。

「近いうちにさ、智絵里の実家に挨拶に行こう。それでさ、まずは籍をいれないか? 夫として智絵里のそばで現実に向き合いたい。二人一緒なら百人力だよ」
「うん……ありがとう……」

 恭介は私が望む以上の言葉をくれる。この幸せが夢でありませんように……。決して消えてなくなりませんように……。智絵里は心から祈るのだった。
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