熱く甘く溶かして

「もしかして、篠田くんにプロポーズされたの⁈」
「なっ、なんでわかったの⁈」
「やっぱり。なんか様子が変だと思ったら、キラキラの指輪が見えたし! どうしたの? 嬉しくないの?」
「ううん、違うの。すごく嬉しいの。まさか自分が結婚出来ると思わなかったし、しかも相手は恭介だし……こんなに幸せなことってないと思ってる。でもちょっと不安なこともあって……」
「……不安?」
「そう……私、一花みたいにちゃんとお母さんになれるのかなとか、子どもをきちんと守ってあげられるのかな……とか」
「……最初から出来る人なんていないよ。みんなゆっくりお母さんになっていくんだよ。私だって出来ないことばかりだし。不安なのはみんな同じだよ。一人一人が違うんだから、それぞれに悩みがあるのは当然よ」

 小さな手が動くのを見て、智絵里は不安が募る。こんな小さな手をちゃんと掴んでいられるのかしら……。

「……私の手の届かないところで何かがあったらって思うと怖いの….守りきれなかったらどうしようって不安になる……子どもはすごくかわいいのに、不安ばかりが募っちゃう……」
「確かにそういうことがないとは言い切れないよね。そんなこと言ったら私だって不安だよ。だけどそうならないようにまずは見守って、そうなった時にはちゃんと助けを求めて欲しいと思う。そしたら私は全力で手を差し伸べて、一緒に問題にぶつかりたいって思う。だからそれが出来るような関係を作れるように、いっぱい大好きとか愛してるとかを伝えていかないとね!」
「やっぱり一花はすごいなぁ。なんてったって、あの先輩をここまで変えたんだもんね。一花は全身愛で出来てるんだと思うよ」
「そんなことないよ。でもね、尚くんにはスキンシップが一番なの。一日一回好きって抱きしめるだけで満たされちゃう」
手懐(てなず)けてるねぇ……」

 二人が笑い合っていると、病室のドアが開いて尚政と真祐が戻ってくる。

「なんか楽しそうだね。なんの話?」
「一花が先輩を大好きって話です」
「えっ、それなら俺も混ぜてよ〜! 何時間でも語れるよ〜」
「じゃあ今度いっぱい教えてくれる? それより智絵里、とうとうプロポーズされたんだって!」
「本当⁈ 良かったね〜! 篠田くん、智絵里ちゃんのことが本当に大好きだから。あっ、俺も一花のこと愛してるからね」
「はいはい。私もよ」

 この二人はいつまで経っても仲が良くて羨ましい。

 一花の言葉が胸に響く。不安なのはみんな同じか……。一人一人が違うんだから、それぞれに悩みがあるのは当然。

 智絵里の中で少しだけ明るい兆しが見えた。
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