熱く甘く溶かして
 智絵里が目を覚ますと、キッチンからいい匂いが流れてくる。

 昨夜は一花の病院に行った後、飲み会だった恭介を待たずに寝てしまった。それなのに、恭介は既に起きて朝食を作っている。

 寝惚(ねぼ)(まなこ)のまま布団の中で丸まっていると、恭介が覆い被さってくる。

「いつまで寝てるつもり? 朝食出来たけど」
「……飲み会の翌朝なのに、なんでそんなに元気なの……」
「だってほとんど飲んでないし。ウーロンハイと言って、烏龍茶飲んでる」
「……なんで飲まないの?」
「人前で酔うのって好きじゃないんだよ。いつでも隙のない篠田で通したいからさ。まぁ智絵里もお酒飲めないし、俺が隙を見せるのは智絵里の前だけでいいんだ」

 恭介は智絵里の上から下りると、隣に肘をついて寝転がる。その様子を見ていた智絵里は、寝返りを打つと恭介に抱きついた。

「昨日は先に寝ちゃってごめんね……」
「俺は逆に寝ててくれた方が安心するけどね。どうだった? 赤ちゃん」
「うん、産まれたばかりですごくかわいかった……」
「いいなぁ、俺も行きたかった」
「退院して落ち着いたら是非って先輩が言ってたよ」
「じゃあその時はお祝い持って行かないと」

 恭介は智絵里の頬にかかった髪をよけると、彼女が浮かない表情をしていることに気付く。

「何かあった?」

 恭介に言われて智絵里は目が泳ぐ。

「言いたいことは言ってよ。受け止めるって言っただろ?」

 そう言われて、智絵里は力が抜ける。
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