お見合い婚にも初夜は必要ですか?【コミック追加エピソード】
6.ふたりの夜のはじめ方
「ん……高晴さん」
「雫……っ」
抱き合い、とろかされながら何度も彼の名を呼んだ。
離れたくない。これが一生の別れじゃないと知っていても、遠く別々に暮らすのは耐えられないほどつらい。本当は何もかも捨ててついていきたいけれど、彼はそんなことを望んでいない。
私たちは私たちだ。お互い大事にしている部分を傷つけず、損なわずに選べる道はこれだった。
高晴さんを見送る。寂しいけれど見送るよ。
だから、こうして精一杯の愛を込めて抱き合う。指先から、視線から、繋がっている部分からすべて、あますところなく気持ちが伝わるように。
「高晴さん、大好き」
深夜、シーツにくるまり私たちは見つめ合った。逢瀬で身体はくたくたに疲れていた。だけどもっと伝え合いたい気持ちが溢れて、切ないほどだった。
「高晴さん、ひとつだけお願いがあるの」
「なに?」
優しい彼の瞳を見つめ、私は言葉にする。ずっと考えていたことの私なりの結論。
「高晴さんが戻ってきたら、赤ちゃんがほしい」
高晴さんがわずかに目を見開く。それから優しく微笑み、言った。
「異動したばかりで、まだ子どものことは考えられないだろうと勝手に思っていたよ。きみはずっと考えていてくれたんだね」
「それでも答えが出せなくて。それに高晴さんがどう思っているか不安で言えなかった」
私は溢れてきた涙をぬぐい、彼の胸にそっと額をくっつけた。
「私は高晴さんの赤ちゃんがほしい。赤ちゃんの成長を一緒に見守ってほしい。だから、高晴さんが東京に戻ってきたら、赤ちゃんのことを考えてほしいの」
高晴さんが私の背に腕を回し、感極まったようにきつく抱き締めてくる。
「俺も赤ちゃんがほしいよ。雫に産んでほしい」