秘密のベビーのはずが、溺甘パパになった御曹司に一途愛で包まれています
 オシャレなレストランで夕食を済ませて、そろそろホテルに戻るべきだろうかと悩む。
 日中は気が紛れていたが、部屋でひとりになれば父らの仕打ちに対する恨み節が込み上げてきそうだと、思い浮かべた状況に表情を歪め、すぐさま却下する。

 そんなの得策じゃない。せっかく勇気を出してここまで来たのだから、とことん楽しい気分で一日を終えたい。

 今いる場所が、携帯ショップで見ていた雑誌に載っていたエリアだと気づいて記憶をたどる。たしかホテルの上階に素敵なバーがあったはずだと、辺りを見回した。

「あった。あそこだ」

 少し歩いて目的のホテルを見つけると、エレベーターに乗って店の前までたどり着いた。
 ひとりで足を踏み入れるにはなかなか勇気がいるが、ここまでの行動を顧みればあと一歩を踏み出すぐらい容易いはずだと、自身に言い聞かせる。

「素敵……」

 明るさを押さえた大人の雰囲気に、胸がドキドキしてくる。店内を行き交う客は誰もが綺麗に着飾っており、まるで別世界だ。

 昼間に着替えておいたのは正解だった。野暮ったい格好をしていては、周りに気圧されて一層足がすくんでしまいそうだ。 
 
 夜景に向けられた私の視線に気づいたのか、見晴らしのよい窓際の席に案内される。
 二人掛けのソファーは、おそらく恋人同士で来店する客を想定して用意されているのだろう。おひとり様には少々気まずいが、眼下に広がる光の洪水に目を奪われると、そんな気持ちは早々吹き飛んだ。向かいに席はなく、まさしくこの光景を楽しむためのテーブルだ。

 とりあえず見た目が気に入った水色のカクテルをオーダーすると、存分に外の世界を見つめた。
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