秘密のベビーのはずが、溺甘パパになった御曹司に一途愛で包まれています
「ありが、とう」

 なんとかそうつぶやく私に、大雅が晴れやかな笑みを返してくる。
 足元にいる陽太は、興味津々な様子できょろきょろと部屋中を見回している。そのうちローテーブルに興味を持ったのか、そちらへ向かって歩き出した。

 先日彼が言っていた『生きていく自信がなかった』というのも、あながち冗談でも誇張でもなかったのかもしれないと若干怖くもある。
 けれど、これが私と陽太を求めてくれていた表れなのだと考えたら、やりすぎだという本音は言う必要がないと呑み込んだ。

 彼がここまでの準備をして私の前に現れたのは、黙って姿を消した自分にも原因があるのだろうか。まるでもう逃がさないと囲われた気分になる。

 マンションの間取りは二LDKで、一室は寝室になっており、もう一室は大雅の書斎だった。ベッドは私が使っていたものよりさらに大きく、キングサイズのものが鎮座している。

「これなら、二人目が産まれてもみんなで寝られるだろ」

 さらりと〝楽しい家族計画〟を聞かされた気がするが、二人目はまだできていない。というか、まだそういう行為をしていない。

「書斎っていっても、家庭には極力仕事を持ち帰らないようにしているから、実質使っていないも同然だよ。陽太が大きくなったら、子ども部屋にしてもいいしね。あっ、それとも当分は千香の書斎にする?」

「私は、リビングの隅に少しスペースがあれば大丈夫。昼間も、陽太を見ながら仕事ができるし」

「そう。じゃあ、机と椅子を用意しないとね。ちなみに、選ぶのは千香だけど、買うのは俺だからね」

 これ以上、大雅に出費させるわけにはいかない。

「自分のものぐらい、自分で買うから」

「だめだよ。これまで陽太にかかる費用はすべて千香が負担してきたんだ。だから、今後千香が自分で稼いだ分は、プライベートで使ってよ。もちろん、高価なものになるなら俺が払うから」

 無事に婚姻届を提出できて、もしかして大雅は興奮状態にあるのだろうか。それとも、もしかしたら罪滅ぼしのつもりなのだろうか。
 彼は見た目以上に、後悔や自責の念に駆られているのかもしれない。
 
「う、うん」

 言いたいことは少しずつ主張するとして、とりあえず今は従っておいた方が大雅の気も済むのだろう。
 案の定、私の了承を受けて彼は満面の笑みを浮かべた。

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