秘密のベビーのはずが、溺甘パパになった御曹司に一途愛で包まれています
 お互いに簡単な自己紹介をする中で、新たなに知ったお義母さんの事情にますます恐縮する。

 彼女は料理教室を主宰しており、その業界ではずいぶん名の知られた方らしい。とにかく人気があるようで、予約は半年以上先まで埋まっているという。
 大雅の料理上手も、おそらく彼女の影響なのだろう。

 今日は仕事の都合で来られなかった弟さんは大学を卒業したばかりで、今はお義父さんの会社で働いている。

 聞かされた小田切家の話に慄いてしまったけれど、実際に話してみると本当に親しみやすい人たちだとわる。
 私を歓迎してくれているというのも誇張ではないようだと、肌で感じられた。

「千香さん、愚息が本当に申し訳なかった」

 仕切り直すかのようにご両親そろって頭を下げられて、こちらの方が慌ててしまう。

「い、いいえ。顔を上げてください。お恥ずかしい話ですが、私としてはお互い様だったと思っていますから。それに、私も大雅さんに告げないまま、勝手に子どもを産んで……本当に、申し訳ありませんでした」

 やっぱりここでも謝罪合戦のようになってしまう。
 でも、私たちが打ち解け合うには必要な過程だ。お互いに申し訳ないと思ったままではどこか遠慮しがちになったり、ことあるごとに謝罪をしたりしてきりがなくなる。

「千香さんのその言葉に、甘えてはいけないとわかっているが……」

 陽太を抱えた大雅をチラリと見たお義父さんは、再び私の方へ向き直った。

「私たちは、千香さんも陽太君も歓迎している。これからはどんな些細なことでも、私たちを頼ってくれると嬉しい」

 優しげな声音でそう言われて、笑顔でうなずき返した。
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