秘密のベビーのはずが、溺甘パパになった御曹司に一途愛で包まれています

「仕事で久しぶりに帰国したんだけど、なんだか疲れちゃってね」

　軽すぎない程度のフレンドリーな口調に、同席を拒否する気持ちが薄れていく。
　前触れもなく語られた話に耳を傾けたが、引っ掛かりを覚えて問い返した。

「久しぶりに、帰国？」

「そうそう。今はアメリカで働いてるんだ。このホテルには数日前から泊まってて、この店に立ち寄るのは初めてだ。そしたら、なんだか沈んだ子を見かけてね。今の俺の心境と同じだと思ったら、つい声をかけてしまったよ」

　そんなに悲壮感が漂っていたのかと、哀れな自分に苦笑した。
　同時に、一体この人はなにに沈んでいるのかと、わずかな興味を抱く。

　初対面の男性ではあるが、気さくな人柄に怪しい人ではなさそうだと早々に気が緩みはじめる。
　それでも異性といるのは落ち着かなくて、ペースを崩してはいけないとわかっていながらも、目の前のアルコールをつい勢いよくあおってしまう。

「自己紹介しておこうか。俺は小田切大雅(おだぎりたいが)で、三十歳。弁護士をしてる。日本の事務所で働いていたんだけど、今はアメリカの支社に勤務してて、明日には向こうに帰る予定だよ」

　ずいぶんあっさりと身分を明かした彼に、一瞬ぽかんとした。
　本当の情報かはわからない。もしかしたら、こちらの警戒心を解こうとでっち上げた可能性もある。

　そうわずかに疑いながらも、これまでに飲んだお酒のせいか程よく酔いが回ってガードが甘くなる。
　物事を深く考えるのが面倒で、とりあえず彼の言葉をそのまま受け入れた。

　一見無防備のようだが、アメリカにも支社がある事務所に所属しているぐらいだ。相当優秀な人なのかもしれないと、完全に言い分を信じ切る。