秘密のベビーのはずが、溺甘パパになった御曹司に一途愛で包まれています
「君は?」と促されて、ついつられて自身の情報を話してしまう。

「佐々木千香、二十五歳。仕事は……突発的に辞めてしまったわ。昨日、広島から出てきたばかりなの」

 少々投げやりになっていたこともあって、ついフェイクを混ぜずに明かしていた。
 彼からはとくに大きな反応はなく、うなずく程度で聞いている。

「広島かあ……そのわりに、言葉は標準語だね」

「家が厳しくて、標準語を話すように躾けられてきたから」

 そこだけは梨香も同じだった。父に至っては、仕事上ここぞという場面で方言で話す。そのあざとさが、私はあまり好きではなかった。

「実は……出てきたというより、家を飛び出してきたというか……」

「家出ってこと?」

 訳ありかと不信感を抱いたのか、隣から視線が向けられるのを感じるが、気づかないふりをして窓の外をひたすら見つめる。
 成人した女の家出など、それほど大きな問題でもないはずだ。

「ええ。いろいろとあって。それで、ここで現実逃避してるんです」

「現実逃避? 千香はどんな現実から逃げてきたの?」

 親しげな呼び方に一瞬ドキッとしたが、あまりにも自然だったから気にする方がおかしいのかもしれない。

 弁護士という彼の職業がそう思わせるのか、それともいろいろと私ひとりでは抱えられなくなっていたのか、ここですべてを吐き出してしまいたい衝動に駆られる。
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