秘密のベビーのはずが、溺甘パパになった御曹司に一途愛で包まれています
 苦々しい表情をした大雅だったが、ふと目元を緩めてこちらを見てくる。

「ごめん、千香。実家と離れたがっている千香はきっと不安になるだろうと思って、ここまで言えずにきてしまった」

「そんな……」

 ここで謝るべきなのは大雅じゃない。見当違いな嫉妬をして、彼の言い分を聞きもしないで疑った私の方だ。
 おまけに、彼の負担になっているのは、縁を切ったとはいえ私の実の姉の言動だ。

「謝るのは私の方だわ。大雅、姉が迷惑をかけてごめんなさい。私、昨日たまたま姉のSNSを目にして……」

 彼女の公開していた写真に、どう見ても大雅だと思わせるスーツの一部が写り込んでいたことや、彼の宿泊先であるホテルの外観まで披露していた事実を説明する。

「大雅が陽太や私を大切にしてくれているのは、ちゃんとわかっているの。それなのに、もしかしてあらかじめ向こうで姉と会うつもりだったのかと、不安で……。私と梨香は一卵性の双子で、もともとはまったく同じ容姿なのだし」

「たとえ双子だったとしても、千香と佐々木梨香はまったく別の人格だ。あの人を見ても、俺の心は微塵も靡かない」

 きっぱりと私の不安を払拭した大雅に、緊迫した話をしているのにもかかわらず胸が熱くなる。

「あ、ありがとう。それでね、偶然の一致にしてはおかしいと思っていたところに、電話越しに姉の声が聞こえて気持ちが抑えられなくなったの。勘違いして、本当にごめんなさい」

 大雅に対して、ずいぶん嫌な言葉をぶつけてしまったと後悔が押し寄せてくる。
 身勝手な振る舞いをしていたというのに、それでも大雅は私に対して寛容で、どこまでも自分の方が悪いように言う。
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