秘密のベビーのはずが、溺甘パパになった御曹司に一途愛で包まれています
 年が明けて数日たった今日、私と大雅は今、広島の地に足を踏み入れている。

 これまでの間に陽太を泊りで預ける練習をさせてもらったが、予想通りほとんど泣かずに楽しく過ごせていたため、今回は大雅の実家で留守番をしている。

「緊張してる?」

 目的地が近付くにつれて口が減っていく私を、大雅が心配そうに覗き込んでくる。

「う、うん」

 ここへ来るのは、家を飛び出して以来になる。
 見慣れた景色に苦しかった日々が思い起こされ、気分も沈みがちだ。

「大丈夫。俺がついているからね」

 大雅だって近くに姉がいるのだからきっと心穏やかではないはずなのに、こんなふうに私を気遣ってくれる。

「ありがとう」

 今ばかりは彼に甘えさせてもらいたい。そんな気持ちを察知したのか、手袋越しに手を握られて笑みを浮かべた。

 今日は、父とのみ対面する予定だ。
 母はもちろん私には興味ないだろうし、私も会いたいとは思わない。
 おまけに、あの人は姉の味方だ。顔を合わせてしまえば見当違いな要求をされかねないし、姉と大雅を引き合わそうとさえするかもしれない。

 梨香の行動を考えたら、本来なら父が会いに来るべきであって、私たちがここまで足を運ぶべきだろうかと苛立たしく思う。
 でも、大雅にも考えがあるようでこうして広島までやってきた。

 父は横柄にも実家まで来るように言ってきたが、さすがにそこはこちらから拒否している。代わりに、父の事務所で会うと提案した。

 あの家の敷居はもう二度跨ぎたくないというのもあるが、そもそも姉がいるのだから行けるはずがない。
 それなのにそんな要求をしてくる父には首を捻るばかりだ。
 私たちの要求は、渋々受け入れた。
< 146 / 168 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop