秘密のベビーのはずが、溺甘パパになった御曹司に一途愛で包まれています
「千香、頑張ったな」

 うれしい一言に、つながれた手をぐっと握る。

 大雅が一緒じゃなければ、私は未だに身を隠し続ける程度の反抗しかできていなかったに違いない。それでは父にとって拗ねている程度でしかなかったのだと、こうして対面してよくわかった。

「親子の縁を切るのが不可能な以上、あとは気の持ちようなんだ」

 首を傾げる私に、大雅が教えてくれる。

「親には従わなければいけない。親を大事にするのは当然だ。たとえば親から虐待されていたとしても、そんなふうに思い込んで突き放せないでいる人は意外と多くいる。そういう場合、弁護士の仕事はその思い込みを解いていくところからはじまる」

 それはまさに数年前の私の姿だ。愛されていないとわかっていながら、言われるまま従って佐々木家に尽くしていた。

「成人してまで、親に従う義務なんてない。会いたくなければ会わないでいいし、親が横柄な態度をとるのなら、身を守るためにも離れればいい。そのうえで、どうしても必要があれば俺たち弁護士が代理人として間に入るし、少しでも関わらずに済む方法を考える。それで、俺の愛する千香は……」

 生真面目な口調で説明してくれた大雅だったが、ふとそれを和らげると一歩前に出て足を止めた。合わせて私も立ち止まる。
 そのまま振り返ると、長身を屈めて私の顔を覗き込んだ。

「うん。今の千香、すっきりした顔をしてる。これで間違いじゃなかったみたいだね」

 ずっと言えなかった本音を打ち明けられて、心はずいぶん軽くなった。佐々木家と無理に関わらなくていいんだと納得したし、これからはそうしていくつもりだ。怯えて暮らすのはもうたくさんだ。

「ありがとう、大雅」

「どういたしまして」

 再び肩を並べて歩き出すと、大雅がそっと手をつないでくれた。
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