秘密のベビーのはずが、溺甘パパになった御曹司に一途愛で包まれています
 陽太はどうしてるのか、今度の休みはどこへ行こうかと話しながら歩いていると、不意につながれた大雅の手が強張った。

「大雅?」

 大雅に合わせて足を止めて隣を見上げると、彼の視線を追って私も左前方に目を向けた。

「梨香……」

 少し離れた場所に、梨香が立っていた。
 私たちの存在にいつから気づいていたのか、大雅を一心に見つめるじっとりとした視線が不気味だ。

「あの人、俺が来ると娘に話したな」

 私たちが広島へ来る予定は、小田切家の人間と父しかいない。絶対に口外するなと強くお願いしてあったが、父は守ってくれなかったようだ。

 苦々しく言い捨てた大雅は、私を背後に庇うように前に出る。
 その間に、梨香がどんどん近付いてくる。

 駅にほど近く、広く人通りの多い往来で、まさか妙な真似はしないと信じたいが、送られてきたメールや贈り物を目にしているだけに正常な判断は期待できそうにない。梨香の行動が読めなくて、ひたすら怖い。

 大雅の一メートルほど手前で足を止めた梨香は、終始私の存在など視界に入っていないかのようだ。
 大雅に向けて満面の笑みを浮かべてみせた、自分に瓜二つの姉に嫌悪感を抱きそうになる。

 大雅の背後で、そっとスマホを握る。
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