秘密のベビーのはずが、溺甘パパになった御曹司に一途愛で包まれています
 大雅の背後で密かに連絡をしていた警察の到着はまだかと、辺りを見回す。少し離れたところに、自転車にまたがる制服姿を見つけて少しだけ安堵した。

「梨香!!」

 でもここで、予想だにしていなかった声が割り込んできてハッとする。
 
「パパ!」

 味方である父の登場に、梨香の表情がパッと明るくなる。

 まさか、父が駆けつけてくるとは思わなかった。こんなところで醜態を晒せば議員としては致命的だというのに、母や梨香のこととなればそんな判断もできなくなってしまうのかと愕然とする。

 祖母を亡くして拠り所を失ったせいか、やはり父の言動はおかしくなっていると確信を深めた。

「パパ、聞いてよ。千香ったら、ひどいんだから」

 梨香が父に駆け寄る寸前で到着した警察官に、大雅が気づく。それに父も気づいたのか、ぱたりと足を止める。
 その間に千香と大雅に近付いた警察官は、事情を聞きながら喚く梨香を引き取った。

「佐々木孝さんですか?」

 別でやってきた警察官に問いかけられて、「そうだ」と父がうなずく。同時に、その近くで漏れ聞いていた人たちからどよめきが上がる。

 県内のいたるところに父のポスターが貼られているし、公の場に顔を出す機会が多いため、父はそれなりに知られている。
 場所が悪かったのか、様々な年代の行き交う通りには当然父を知っている人も混じっていたようだ。

「ちょっと、どきなさいよ。大雅さんのところに行かせてよ!」

 父が来ても自分の思い通りにいかないと苛立った梨香は、警察官を相手にさらに大きな声で喚き出す。
 手の付けられない状況に、ついに梨香はパトカーに乗せられてしまった。

 それから私たちも場所を変えて事情を聞かれ、解放されるまでにずいぶんと時間がかかった。
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