秘密のベビーのはずが、溺甘パパになった御曹司に一途愛で包まれています
「それは逃げなんかじゃない」

 きっぱりそう言い切った大雅の真意がつかめなくて、じっと見つめる。
 闇雲に違うと言われても、嬉しくなんてない。その場限りの慰めなんていらないと、わずかな反抗心が芽生えてくる。

「血はつながっているが、心はつながれなかった。そんな家族を、千香は見限ったんだよ」

「心が、つながれなかった?」

 予想外の言葉に、首を傾げる。
 よくわからないが、先に私を切り捨てようとしたのは父たちの方ではないか。

「ああ」

 両親や姉とは、最後までわかり合える気がしなかった。育ての親である祖母だって、無条件に甘えさせてくれる存在だったとは言えない。
 彼女が私を引き取ったのは、将来の佐々木家を支える人間を育てるためでしかなく、純粋に育児放棄された私を救ったのではないとうすうす気づいていた。私を育てるのは、義務でしかなかったのだろう。
 私に向けられた祖母からの情は、家族に向けるものとは違うと肌で感じていた。
 
 だからこそ、ずっと一緒に暮らしてきた相手との永遠の別れだというのに、寂しさがずいぶん希薄なのだ。少なくとも、亡くなってすぐだというのに、平気で実家を飛び出してしまえるぐらいには。

 ここまで育ててもらった恩は感じている。
 でも、甘えたい私と跡取りを育てたい祖母とでは、気持ちのベクトルがまるで違い、交わりはしなかった。
 それもまた大雅の言う、心ははつながれなかったということになるのだろうか。
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