秘密のベビーのはずが、溺甘パパになった御曹司に一途愛で包まれています
「お返しだ」

 伸ばされた大雅の手が、私の頭をぐりぐりとなでてくる。

「千香も、ひとりでよく頑張ってきたな」

「ちょっと」

 ぼさぼさになってしまうと嫌がりならも、彼の手を本気では振り払えない。
 親にすらそうされた記憶がなくて、陽気な空気を壊したくないのに涙が滲んでくる。
 彼の温かい手は、閉ざしていた私の心を容易に開いてしまう。

 うつむいてしまった私に、大雅もいろいろと察したのだろう。そのままそっと肩を抱き寄せると、私の腕をさすりながらなにも言わずに落ち着くのを待ってくれた。

「ごめんなさい」

 なにがとは聞いてこない。さらに力を込めて抱き寄せられるまま、彼の胸元に寄りかかる。

「こんな状態の千香を、ひとりにさせたくないな」

 しばらくしてぽつりと降ってきた言葉に、ドキリと胸が跳ねる。髪に口づけられるのを感じて鼓動が速くなる。

「弱みに付け込むようだけど、決して軽い気持ちじゃない。今夜は俺に、千香を慰めさせてくれないか?」

 言葉の意味を理解して、頬に熱が集まる。

 優しくしてくれる大雅に、今だけは縋ってしまいたい。
 そう答えを口にするのは気恥ずかしくて、コクリとうなずきながら彼のシャツをぐっと握りしめた。

「行こう」

 スマートに支払いを済ませた大雅は、そのまま自身の宿泊する部屋へ私を連れ去った。
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