秘密のベビーのはずが、溺甘パパになった御曹司に一途愛で包まれています
「ん……」

 口づけられたのは、扉が閉まる前からだったかもしれない。部屋に入った途端、壁に軽く押し付けて身動きを封じられる。足下に落ちたバッグを気にかける余裕はなく、されるまま大雅に身を預けた。

 熱い手が背中に回され、繰り返しなでられているうちに体の力が抜けていく。

「千香」

 口づけの合間に私を呼ぶ優しい声に、喜びで胸が震えた。
 彼は今、私だけを見てくれている。その事実に、再び涙があふれそうになる。

 酔っているせいもあるのだろうか。包み込むように抱きしめられて、初対面の相手にもかかわらず不思議と心が安らいでいく。

 髪に何度も口づけを落とすと、腕を解いて軽々と私を抱き上げた大雅はベッドに近付いた。そのままそっと私を下ろすと、再び口づけられていく。
 
「俺に甘えてよ」

 これが私に対する哀れみだったとしてもかまわない。今だけはすべてを忘れて、わがままでいたい。

 一度も経験がないと伝えれば、私に触れる手がますます優しくなる。
 その気遣いを、愛されていると都合よく思い込めば、怖いとはいっさい感じなかった。

「綺麗だ」

 深い口づけに必死で応えているうちに、身に着けていたものは徐々に脱がされてベッドに押し倒されていた。
 熱い視線に全身をじっくりと見つめられ、羞恥で身を捩ったが、許さないというように優しく抑え込まれてしまう。

 顔中にキスを降らせた後に、再び深く口づけられる。導かれるまま舌を差し出してすり合わせていると、心地よさが増してくる。もっとと強請るように、彼の首に腕を回した。
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