秘密のベビーのはずが、溺甘パパになった御曹司に一途愛で包まれています
 それから必要最低限の生活用品と商売道具となるパソコンを購入すると、早速任された仕事にとりかかった。
 これがうまくいけば次につながるはずだと信じて、手探り状態ではあったものの丁寧に進めていく。正確さを重視するだけでなく、物語の世界観を大事にしながら読み物として成立するように言葉を選んでいく作業は、大変だけどおもしろい。

 ただ、楽しく感じるばかりではない。
 反面では、これを一生の職にしていけるようにしたいと、焦りにも似た妙な緊張感がつきまとう。
 そのせいかつい根を詰めがちになってしまい、食事がおろそかになったり外に出なくなったりしていた。

「千香ちゃん、今いいかしら?」

「はあい」

 玄関のチャイムと同時に聞こえた加奈子さんの声に、キーボードを弾いていた手を止める。
 さっと時計を見ると、十四時を過ぎたところだ。仕事に集中するあまり、すっかりランチを食べ損ねてしまっていたと、今になってやっと気がつく。

「差し入れを持って来たわよ」

「いつもありがとうございます。ちょうど一息入れるところなので、上がってください」

 キッチンに立つのが好きだという加奈子さんは、多めに作ったおかずやお菓子をもって頻繁に訪ねて来てくれる。きっと食生活が不規則になりがちな私に気づいて心配してくれているのだろう。
 それに対して私も、時間に余裕があるときに彼女を夕飯に招待している。
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