秘密のベビーのはずが、溺甘パパになった御曹司に一途愛で包まれています
 今日は、昨日焼いておいたというシフォンケーキを持ってきてくれた。そういえば夕方、窓を開けたら甘くていい匂いが漂っていたと思い出す。

「わぁ、美味しそう」

 私が紅茶を淹れる間に、加奈子さんはケーキを並べて、さらに生クリームやメイプルシロップ、砕いたナッツを使って最後の仕上げをしていく。売り物かと見間違うほどのできに、お腹が小さく鳴った。

「いただきます」

 口の中でじゅわっととろけるような食感を堪能して、幸せな気分に浸る。優しい甘さが、溜まった疲れを癒してくれるようだ。

「加奈子さん、いつもありがとう」

 すっかり食べ終えて改めて礼を伝えると、加奈子さんは満足そうに微笑んだ。

「どういたしまして。次はフィナンシェでも焼いてこようかしら」

 彼女が作るものなら間違いなく美味しいはずだと、早くも想像してしまう。

「じゃあ、また来るわね」

 しばらくおしゃべりを楽しむと、加奈子さんは隣の部屋に帰っていった。

 初めて尽くしの生活に、彼女の存在がなければとっくに参っていたかもしれない。加奈子さんがいてくれたからこそ、気持ちの切り替えも不安の解消もうまくできている。
  
 そうしてなんとか仕上げられたひとつ目の仕事を納品すると、しばらくして出来がよかったと評価がもらえて心底安堵した。
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