秘密のベビーのはずが、溺甘パパになった御曹司に一途愛で包まれています
 ため息をついて、自作のサンドウィッチに左手を伸ばす。その合間に右手でメールを削除して、仕事用の画面に切り替えておく。

 画面に映し出されたのは、コメディー色の強い恋愛小説だ。 
 サンドウィッチを頬張りながら、最後に作業した数行前に戻って読み返していく。

 国内ではまだお披露目されていないおもしろい作品を、いち早く読める特権。読書好きの私には理想的な仕事で、とにかく楽しい。
 作業に没頭するうちに、さっき目にした嫌なメールは意識の外へ追いやられていった。
 いくつ目かのサンドウィッチに手を伸ばしながら、仕事を進める。

「あれ?」

 しばらくした頃、口にしていたサンドウィッチの味に違和感を覚えて手を止めた。画面から視線を外して、左手に持った残りに目を向ける。低コストを重視した、レタスときゅうりとハムを挟んだのみのなんの変哲のないものだ。

「美味しくない」

 手抜き料理ばかり作っているうちに腕が落ちたのだろうかと首を捻ったが、そもそも失敗するようなメニューでもなかった。気のせいかもしれないが、なんとなく気になって匂いをかいでみる。

 おかしいところはなさそうだと原因を探っているうちに、胃の辺りが不快感に襲われる。なんだろうと腹部に右手を当てて残りを皿に戻した瞬間、突然吐き気が込み上げてきて慌ててトイレに駆け込んだ。

 傷んでいた材料でもあっただろうか?
 原因がわからないのを不安に感じながら、ひたすら気持ち悪さが落ち着くのを待った。
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