秘密のベビーのはずが、溺甘パパになった御曹司に一途愛で包まれています
「今後だが、生前の母さんと決めたように、この家は千香が婿を迎えて継いでもらうつもりだ」

 ああ、その話か。
 父と母との間には、私たち姉妹しか子どもがない。
 親子二代にわたって守ってきた地盤だが、どうしても男性優位に考えがちで、姉妹が引き継ぐという意見は一度も出なかった。政治など自分には無理だと自覚しているから、それについて異論はない。

 父は優秀な人物に婿入りしてもらい、自分の引退と同時に立候補させようと目論んでいる。現段階では相手を見極め中だそうで、当事者である私にもその候補ですら知らされていない。

 梨香では躾が行き届いておらず、妻としての役割を果たせないだろう。だから妹の私が継ぐのだと、祖母から理由も含めて言い聞かされており、昔から承知している話だ。
 
 ここの敷地内には、祖父母と私が暮らしてきた離れがある。両親が結婚したのをきっかけに、祖父母が建てた家だ。当時は大きな家では落ち着かないと理由づけていたようだが、おそらく、あの母との同居は苦痛だったのだろう。

 私が結婚したら、そのまま離れで生活する話になっている。
 両親と完全同居にならないのもちょうどいいと言われてしまえば、すべてが整えられており、退路を断たれたような気にさせられる。

 私は一生この家を離れられないのだという嘆きは自身の内に秘めたまま、決められた未来を受け入れてきた。

 社会人経験もしておくべきだと、今は親類の経営している会社に勤めているけれど、来年にも退職して父のサポートをする約束になっていた。しかしそれも、祖母が亡くなったことで早まるかもしれない。
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