秘密のベビーのはずが、溺甘パパになった御曹司に一途愛で包まれています
 一歳を迎える数日前に初めて歩いた陽太は、それからさらに半年もすると段差を登上り下りするほどまでになった。
 両手を上げてバランスを取りながら、まるでロボットのように歩いている時期は微笑ましく見ていたが、ますます活発に動くようになり目が離せなくなっていく。

 気づけばテーブルによじ登っていたり、勝手にほかの部屋に行ったりする。時には、ティッシュペーパーを箱からすべて出してしまうといういたずらも披露してくれた。
 日に日に増していくやんちゃぶりは、かわいくもあり悩みでもある。

 それもあって、意識的に仕事の手を止めて、陽太の動向を見届けるようにしている。

 先日のこと。ご機嫌で歩いていた陽太だったが、なにもないところで転んでしまった。その直後にハッと顔を上げ、私の姿を認めた途端に泣き出す様がたまらなくかわいいし、必死にこちらへ腕を伸ばす姿には愛しさで胸が痛くなるほどだった。

 近付いて抱き上げてやれば、ほどなくして泣き止む。目じりに溜まった涙をぬぐって、その小さな体をぎゅっと抱きしめる。
 腕の中のぬくもりに、この子を産んで本当によかったと、幸せを噛みしめた。


 五月に父へ最後のメールを送ってから半年ほどになるが、向こうからの連絡は今でも途切れない。
 それでも居場所を突き止めようとしないのは、勝手ばかりする私には探し出す価値すらなくなったということだろうか。もしくは把握したまま放置されているのか。

 どちらにしろ、接触がないのはこちらにとっても好都合だと、警戒心が薄れていく。
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