秘密のベビーのはずが、溺甘パパになった御曹司に一途愛で包まれています
 記憶の中にある通り目元は優しげで、身長はすらりと高くて見上げないと視線が合わない。温和な雰囲気は変わらないが、あのときよりも若干精悍な顔つきになったかもしれない。

「なんで、ここに?」

「言っただろ? 捜したって」

「さが、す?」

 状況が把握できず、かみ砕くようにゆっくりとつぶやいた。

 あの夜は酔っていたから曖昧な部分もあるが、彼となにかを約束した覚えはまったくない。もしなにかあったなら、私はあの日、彼の目覚めを待っていただろう。
 
 私たちは、あくまで一夜限りの関係だったはず。

「捜される理由が、わからないわ」

 首を横に振ってうつむいた。

 想いを寄せた男性との再会が、嫌なわけがない。それどころか、その声を聞けば一瞬で当時の状況がよみがえり、胸がいっぱいになってしまう。

 けれど、驚きと戸惑いと大きな隠し事に、再会を手放しに喜べない自分がいる。

 そんな私の反応になにかを感じたのか、大雅が切なげな表情になる。

「千香、俺は……」

「うっ……ううっ……うわぁん」

 大雅の言いかけた言葉を遮るように、室内から陽太の泣き声が響いてくる。どうやら目が覚めてしまったようだと背後を振り返った。

 こんな突然の大泣きも、一年半の育児の経験からすっかり慣れている。だから、普段ならうろたえはしない。
 でも、今はそうもいかない。
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