秘密のベビーのはずが、溺甘パパになった御曹司に一途愛で包まれています
「年の離れた弟がいたから、子どもの面倒を見るのに慣れてるんだ」

 身動きできずにただひたすら大雅に抱かれた陽太を見つめる私に、人のよさそうな笑みを浮かべて話しかけてくる。

「そ、そうなんだ」

 気の利いた返しもできないで立ち尽くしていると、「ほら」と陽太を返される。
 慌てふためきながら受け取り、水分を補給させて、玩具に惹かれる陽太を彼専用に用意したスペースに下ろした。

 世話が済んでしまえば、あとは大雅と向き合うしかなくなる。
 覚悟も定まらないままゆっくりと立ち上がって、背後を振り返る。私と目が合った大雅は、陽太を泣き止ませたときの明るい表情は失せ、切なげな表情をしていた。

「千香、突然来ちゃってごめん。少し、話がしたい」

 チラリと陽太に視線を向ける大雅に、ドキリとする。
 陽太の父親については、誰にも明かしていない。だから今の視線は、あれから結婚して出産までしたんだなという、確認程度のもののはず。

 妙な緊張にうるさく打ち付ける胸元を押さえながら、ダイニングテーブルに大雅を促す。

「な、なにか、飲む?」

「いや、いい」

 少しの時間稼ぎも叶わず、渋々私も向かいの席に着いた。
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