秘密のベビーのはずが、溺甘パパになった御曹司に一途愛で包まれています
「千香の悩みを聞いているうちに、ますます君に傾倒していったのは否めない。実の家族にひどい扱いを受けていたことに同情したし、できればもっと早くに出会ってなんとかしてやりたかったと悔しくなった」

「それは……ありがとう?」

 なんと言ってよいのかわからず、どことなく場違いな感謝になってしまう。

 チラリと横目に見た陽太はずいぶんとご機嫌で、手にしていたはずのものはすでになく、代わりにボタンのたくさんついた玩具で遊び出していた。
 時折陽太の立てる物音が、高まる緊張感を少しだけ緩めてくれるようだ。

「千香はどこまでも前向きで、『これから仕事を見つけて、自力で生きていく!』と宣言するその芯の強さがまぶしかった。気づけば俺は、他人には打ち明けるつもりもなかった悩みを口にしていた」

 それに対して私は、彼の肩に腕を回して励ましたはずだと、とんでもない言動を思い出してしまう。あれは酔っていたからこそできた所業だ。

 恥ずかしくてうつむきがちでいると、大雅がくすりと笑った。きっと彼も、当時のやりとりを思い起こしているのだろう。

「千香のあの励ましがすごく嬉しかった。こんないい子が不幸であっていいわけがない。俺がこの子を幸せにしてやりたいって思ったんだ。だからあの晩、君を部屋に誘った。決して、酔っていたからとかその場の勢いなんかじゃなかった」

 まさか彼がそんなふうに感じていたなんて想像もしておらず、嬉しさで胸が温かくなる。

 でも、その結果私が妊娠するなんて、彼にとっても予定外だったはずだ。
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