秘密のベビーのはずが、溺甘パパになった御曹司に一途愛で包まれています
「千香、顔を上げてくれないか」

 促されるままゆっくりと視線を上げると、大雅は穏やかな笑みを浮かべていた。

「謝るのは俺の方だ。いい年した大人が運命とも言いたくなる出会いに浮かれて飲み過ぎて、大事にしたい女性なのに触れられる幸せに舞い上がって、前後が不覚になってしまった」

「えっ、あ、あの……」

 いくら優しい大雅でも、さすがに勝手な行動を責めるだろうと覚悟をしていた。
 それなのに、彼の口から飛び出したのはこちらが恥ずかしくなるほどの言葉で、だんだん顔に熱が集まってくる。

「理性がぎりぎり残っているうちに、きちんと伝えておくべきだった。あのとき俺は、なにを差し置いても先に、千香に交際を申し込むべきだったんだ。どうしても君を手に入れたくて、出会ったその日のうちに抱いてしまったのも、今思えば早急過ぎだった」

「で、でも、翌日にはアメリカに帰るって」

 彼がなにを言いたいのかわからず、混乱する。

「そもそも、そこだね。俺のアメリカ赴任は、ちゃんと期間が決められていた。千香に出会った時点で、残り約一年。しばらく遠距離になってしまうけど、先は見えているから付き合っていけるはずだと……って、千香の気持ちも確かめないまま、身勝手にも部屋に誘ってしまった」

 あの夜大雅が見せた優しさは、あの場限りものではなくて本心だったというのだろうか。
< 55 / 168 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop