秘密のベビーのはずが、溺甘パパになった御曹司に一途愛で包まれています
「俺はあの日、逆境にも負けない前向きな千香を好きになった。あれ以来、千香を忘れられなくて、今日までずっと君だけを想ってきた。なんとかして君を捕まえようと思ってたんだ」

 まっすぐにそう言ってのける大雅に、私の方が恥ずかしくなってくる。

「ただ、千香の行方を捜していた理由はそれだけじゃない。いろいろと思い出す中で、避妊を怠った可能性にも行き着いた」

 もう二年以上も前になるというのに、長い時間ずっと私を想ってくれていたという告白に胸が震えた。それと同時に、後悔なのか申し訳ない気持ちなのか、大雅の抱える暗い気持ちにも気づいた。

「勝手に、陽太を産んだことは……」

「千香ひとりに負担をかけてしまって、すまなかった」

 再び謝罪をしようとする私を、大雅の言葉が遮る。
 彼の中には、そこに対する罪悪感のようなものがあったようだ。

「そ、そんな……」

 深々と頭を下げる大雅に慌てて、顔を上げてくれるように促した。

「千香はどうして、この子を産もうと決めたの?」

 陽太に視線を向けた大雅の目は優しげで、そこに怒りのような感情はいっさい見られない。

 ここで適当にごまかしたり無言でやり過ごしたりするのは、あまりにも不誠実だ。テーブルの上で重ねていた手にぎゅっと力を入れてひとつ息を吐き出すと、意を決して大雅を見据えた。

「あの夜、私の話に耳を傾けて、甘えさせてもらえたのがとにかく嬉しかった。ううん、それだけじゃない。私も一緒に過ごしたあのたった数時間で、優しい大雅に惹かれてた。子どもができたとわかって不安になったけど、それでもこの子は私にとって幸せの象徴で、あきらめるなんて考えはほんの少しもなかった。あなたに対して勝手をする後ろめたさは大きかったけど……」

 話しているうちに、大雅の顔に満面の笑みが広がっていく。
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