秘密のベビーのはずが、溺甘パパになった御曹司に一途愛で包まれています
「それから、尋ねてきてくれてありがとう。おまけに結婚まで申し込んでくれて……」

 陽太が誕生した瞬間は、喜びに満ち溢れていた。私がこの子を育てていくのだと、強く心に誓ってここまで生きてきた。
 この数年の間に、仕事も見つけたし住む場所もあって、ふたりだけの生活はしっかりと構築されている。

 でも、この先の不安がまったくないわけではない。いつか陽太が、父親の存在に疑問を抱くときが来るだろう。
 それに、私になにかがあればこの子は一人ぼっちになってしまう。

 差し伸べられた優しい手を、本心では受け入れてしまいたい。好きな人からのプロポーズが嬉しくないはずがないし、陽太のためにもありがたい話だ。なんのわだかまりもなければ、即答で了承していたかもしれない。

 けれど……。

「ありがとう。でも……結婚は無理です」

 心のまま彼の手を受け取れたら、どんなにいいか。もうずいぶん時間が経った今でも、彼を目の前にすれば胸は高鳴るし好きだという気持ちは少しも変わらないと気づかされた。

 本心とは逆の答えを告げるのは、苦しくて仕方がない。彼の視線から逃れるようにうつむいた。

「理由を、聞いても?」

 チラリと視線だけ向けると、同じく苦しげな表情をする大雅が見えた。本当はそんな顔をさせたくなかったと、眉間にしわを寄せた。

 髪に手を伸ばしてきた陽太の手に自身の手を添えると、小さな手が私の人差し指をぎゅっと握りしめてくれた。それに後押しされて口を開く。
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