秘密のベビーのはずが、溺甘パパになった御曹司に一途愛で包まれています
「あとは、寝る場所をどうするかだな」

 背中越しに聞こえた発言に、ドキリとする。
 細かいところまで考えずにOKしてしまった自分は、やはり警戒心が足りないようだ。

 このアパートの間取りは一LDKで、一室は私と陽太の寝室になっているため空き部屋はない。おまけに、どの部屋も手狭だ。
 まさか、大雅にリビングで寝てもらうわけにもいかない。かといって私ひとりならともかく、陽太もいては寝室を明け渡すのも難しい。

「えっと……とりあえず、あなたをソファーで寝せるわけにもいかない、かな?」

 振り向く勇気はなくて、後ろ向きのまま発した声はずいぶんと小さかった。
 代替案など持ち合わせておらず、判断を大雅に仰ぐような言い回しになってしまう。

「ああ、大丈夫。アウトドア用の寝袋があるから、その辺に転がって寝れば……」

「さ、さすがにそれは申し訳ないわ。体を痛めてしまいかねないし」

 一晩だけならともかく、連日は絶対に辛いはずだと、大雅のあり得ない提案に思わず振り返る。視線が合った途端に、ハッとしてうつむいた。

「えっと、その……」

 くすりと笑った大雅が、こちらへ近付いてくる。

「無理はしなくていい。口説くって言ったけど、なにも無理やりどうこうしに来たわけじゃない。俺は大丈夫だから、おとなしくリビングで寝るよ」

「そ、そんなわけには……あっ、でも、陽太はまだたまに夜泣きをして迷惑かけてしまいかねなくて……」

「迷惑なんてまったく思わない。でも、そうか。まだまだ小さいもんな」

 陽太の頭をなでながら、それは知らなかったと言う大雅に、手こずった夜の話を聞かせる。
< 70 / 168 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop