秘密のベビーのはずが、溺甘パパになった御曹司に一途愛で包まれています
 陽太にとって、甘えられる父親の存在はもちろんあった方がいい。
 私にとっても、頼れる存在は心強い。

 大雅の休みもあと二日になったところで、その決意は固まった。

「大雅、今晩は私が夕飯を用意するね」

 彼の罠にまんまとはまったかのように、私の胃袋はすでに陥落している。料理上手な彼に作ってあげるのは若干不安だが、今晩はどうしてもそうしたい。

「本当? 楽しみだなあ」

 くれぐれも過剰な期待をしないようにお願いしておく。
 ここ数日の感謝の意も込めて大雅の食べたいものを尋ねた結果、生姜焼きを希望された。買い出しから帰ると、早速腕まくりをしながらキッチンに立つ。

 調理をしている最中、背後からふたりの会話が聞こえてくる。

「にんにん、にんにん」

「すごいなあ、陽太。なんでも知ってるね」

 チラリと振り返る。どうやらおままごとセットで遊んでいたようで、右手ににんじんのおもちゃを握って一生懸命言葉を発する陽太を、大雅が手放しでほめちぎっていた。

「陽太、美味しそうな匂いがしてきたね。楽しみだなあ」

「わんわん」

 成立しているのか不明なやりとりがおかしくて、くすりと笑う。
 
 ほかに、お味噌汁と煮物とサラダも用意する。
 大雅が陽太を見ていてくれるおかげで、途中で中断することなく仕上げられた。
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