秘密のベビーのはずが、溺甘パパになった御曹司に一途愛で包まれています
「なにかな?」

「話があるの」

 私の畏まった雰囲気に、大雅もすっと背筋を伸ばして顔をこちらに向ける。

「もうすぐ、大雅の休みも終わるでしょ? だから、そろそろちゃんと結論を出さないとって思って……」

「聞かせてくれるんだね?」

 コクリと首を縦に振る私を見て、大雅の表情にわずかに緊張が走った。

「その……大雅が私でいいと言うなら……よろしく、お願いします」

 頭を下げて反応を待つ。

 すぐにでも返事があるとの思い込みは裏切られ、しばらく無言が続く。
 待たせ過ぎてもう手遅れだったのかと、嫌な予感にごくりと喉を鳴らした。

「千香、違うよ」

「え?」

 バッと顔を上げる。
 ここに来てまさか断られたのだろうかと不安になったが、彼の穏やかな表情を見る限りそうでもないようだ。

「俺がいいかどうかじゃないよ。そもそも、はじめから俺は千香と結婚したいって言ってるでしょ」

 ついさっき自身が口にした言葉を思い起こす。

〝大雅がいいと言うなら〟って、考えてみれば自分の気持ちなんて少しも込められていない。

 この数日の彼は、とにかく私と陽太に尽くして『ありがとう』『愛してる』と頻繁に気持ちを伝えてくれた。その大雅に対して、さっきの言葉はあまりにも失礼すぎだ。

「ご、ごめんなさい。私……」

 気持ちは決まったのに、どこまでも逃げ腰になってしまう自分が嫌になる。
 母親になった以上、家を出てきたときのような突発的な行動などできなくて、どうしても守りに入ってしまう。

 でも、今はそれではだめだったと気づいて、大雅に謝罪をする。
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