秘密のベビーのはずが、溺甘パパになった御曹司に一途愛で包まれています
「これでやっと家族になれた」

 無事に届を出して外に出ると、大雅が幸せそうに言う。つられて私の顔にも笑みが広がった。

 数日前まで、まさか自分が結婚するなんて考えてもみなかった。しかもその相手は、陽太の実の父親であり私が想いを寄せる大雅だ。
 役所の建物を背にして歩く中、彼と結婚したんだという実感がじわじわと湧いてくる。隣を歩く大雅をチラリと見ながら、その幸福感を噛みしめた。
 
 不意に大雅がつないでいた手を解いて、陽太を抱き上げた。そのまま喜びを表すかのように陽太のお腹に額を擦り付けると、くすぐったかったのか、陽太が笑い声をあげる。

「陽太、パパだよ」

 ひとしきり触れ合った後、至近距離で目を合わせながら大雅が語りかける。
 大雅に対しては、陽太の存在を知らせなかったという罪悪感を抱いてばかりだったけれど、これから取り戻していけばいいと気持ちを切り替えて、ふたりに一歩近づく。

 再会して以来、私からは大雅を〝パパ〟だと陽太に言えずにいた。でも、これからは違う。

「陽太、パパに抱っこしてもらえてよかったね」

 一瞬ハッとした大雅は、「嬉しいよ」と言いながら陽太とふたりまとめて抱きしめてくれた。

「千香、これを」

 車に乗り込んだとたんに差し出されたのは、小さな箱にふたつ並んだ結婚指輪だった。

「大雅……」

 まさか指輪まで用意していると予想しておらず、驚きに言葉を失う。

「君が俺のものだっていう印に、つけさせてほしい」

 請われるまま左手を差し出せば、薬指にそっと指輪をはめられる。そのままその手を顔の高さまで持ち上げると、指輪に優しく口づけた。

「千香も。俺が千香のものだっていう印につけてよ」

 差し出された指に、震える手で慎重にはめていく。ぎゅっと彼の手を握った後、同じように口づけた。

「ありがとう、大雅」

 幸せすぎて震える声でお礼を伝える私を、もう一度大雅が抱きしめる。
 
 実家を飛び出したときは、こんな幸せな未来を掴めるなんて想像すらしていなかった。大雅とならきっと心でつながる家庭を築いていけるだろうと、新しい生活に思いを馳せた。

< 98 / 168 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop