秘密のベビーのはずが、溺甘パパになった御曹司に一途愛で包まれています
 その後向かったのは、都心に建つ四十二階建ての高層マンションだった。

「た、大雅……本当に、ここなの?」

 さっきまで過ごしていた三階建ての古いアパートとの差が大きすぎて、戸惑いを隠せない。
 土足で歩いていいのか迷ってしまうような、ピカピカに磨き上げられたエントランスを抜けて連れていかれたのは、三十階の彼の部屋だった。

「セキュリティーもしっかりしてるんだよ。そこはかなりこだわったんだ」

 過保護になっているのか、大雅が真剣に言う。
 ただ安全面では安心でも、心の平穏というか精神衛生的にというか、とにかく豪華すぎて足がすくむ。常に緊張を強いられそうだ。

「そうそう。賃貸じゃないから、家賃の半分とかそういうのはいらないよ」

 籍を入れたとはいえ、これからは一緒に暮らすという程度の話しかしておらず、今後の生活費をどうするか細かい打ち合わせはしていなかった。

「で、でも……」

 大雅に寄りかかる生活は決して望んでいないが、もしここが賃貸だったとしても、これほど高級な部屋の家賃を払っていく力は私にはない。

「俺たち家族になったんだよ。もちろん、千香が仕事を続けたいのならそうしてほしい。でも、俺が千香や陽太を養っていきたいんだ。そこだけは譲れない」

 それは大雅の理想とする家族像なのだろうか。そのあたりは、おいおい話し合った方がよさそうだ。
 私も仕事を続けていく予定でいる。完全に彼に頼り切った生活には望んでいないが、大雅の希望ならできるだけ合わせたい。
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