あなたの落とした願いごと
それは美しくて琥珀みたいで、瞳の下部分が涙袋に隠れているところから見るに、多分彼は微笑んでいるのだと思う。


私の願いは断じて学力向上ではないけれど、神社仏閣に詳しい彼が希望を抱かせるような事を言ってくれたのは素直に嬉しい。


「ありがとう」


ドキドキする胸をそのままに、彼の目を真っ直ぐに見て口角を上げると、


「おう」


彼の優しい声が風となり、私の髪をふわりと揺らした。



こうして神々にまつわる話を聞いていると、彼の記憶力と吸収力が凄まじい事が改めて実感できる。


「滝口君、本当に何でも知ってて凄いよ。宮司さんになる為にお父さんから教わったりしたの?」


今日こそ会わなかったものの、毎朝鳥居近くを掃除している優しげな宮司さんの姿を想像しながら尋ねると。


「……いや、親父は忙しいから。自分で勉強してる」


不自然な間が空いた気がしたけれど、その回答は完璧主義な彼の人柄を表すのにはうってつけのものだった。


「そっか。本当に凄いね、尊敬しちゃう」


思わず口をついだ本心からの褒め言葉に、滝口君が一瞬だけ足を止めてこちらを見た。


(えっ?)


どうして彼がこちらを見てきたのか、鈍感な私には見当もつかない。


何か怒らせるような事を言ってしまったかと記憶を辿るものの、特に思い当たる節はなくて。
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