あなたの落とした願いごと
もう一度彼の目を見れば何か分かるかも。


そう思った私は、彼の日焼けした肌色の丸をじっと見つめる。


そうして私の目が捉えたのは、


「…?」



琥珀色の美しい瞳を最大限まで見開いて私を見つめる、滝口君の目だった。



彼と私の目線が見事にぶつかり合い、胸が締め付けられるような感覚に襲われた。


先程目を合わせたときとは違うこの感覚に、瞬きをするのも憚られる。


好きな人と視線を交差させるだけで、こんなにも幸せで胸が苦しくなるなんて知らなかった。


エナと空良君がどうして何度も顔を見合わせて話すのか、福田さんがどうして滝口君の視界に入って話そうと奮闘しているのか、その理由がようやく分かる。


何故滝口君が驚いているのか分からないけれど、出来るならこのままが良いな。



でも、滝口君はゆっくりと私から目を逸らし、

それを合図とするかのように、私の視界から彼の”目”の存在が消えていく。



「待って、」


駄目、消えないで。

なのに、私の願いは虚しく散ってしまう。


「学校」


校門が近づき、言葉少なにそう語る彼の横顔は、もう私に何の表情も見せてくれなかった。



そのまま、私達は一言も会話をせずに昇降口に入った。


ぎゃあぎゃあ騒ぐ顔のない男子達の横をすり抜け、静かにロッカーから教科書と上履きを取る。


ふと横を見ると、滝口君もかがんでロッカーを開いていた。
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