あなたの落とした願いごと
私も滝口君の事が好きだし、同じ想いを抱いている事は一緒なんだ。


「ふ、福田さん」


意を決して、小さな声で彼女の名を呼ぶ。


でも。


「…うるさ。気散るから黙れよ」


小さく舌打ちをした滝口君の地を揺るがす程の低い声に、阻まれてしまった。


例えるなら、完全に苛ついているその声は黒色。


「えっ、」


多少ショックを受けた様子の福田さんが、蚊の鳴くような小さな声を出す。


けれど、滝口君は彼女の方に目も向けず、膝をパンパンと払って立ち上がると。


「何してんだよミナミ。行くぞ」


それが当たり前かのように、私に声を掛けたんだ。


「あ、…うん!」


私を呼んだときの彼の声は全く黒くなくて、それに嬉しくなった私は口元に弧を描きながらその後を追う。


石像のように微動だにしない福田さんの横をすり抜けた時、


「調子乗らないでよ」


滝口君に話しかけた時とは真逆の、明らかに憎しみの籠った声が聞こえた。


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