あなたの落とした願いごと
高校生に入ってから90点台を1度も叩きだした事のない私は、感嘆の溜め息をつきながらご飯を口に入れた。


そしてその一瞬で、エナの周りを取り巻く空気が一変し、


「…神葉君、あなたは金輪際自慢しなくて大丈夫だから」


せっかくの喜ばしい雰囲気を壊されてしまったからか、彼女は憎々しげにそう吐き出した。



「お前は?古文どうだったんだよ」


そして、パンを噛みちぎった彼は私に話題をふってきた。


「赤点取らなかったよ。平均ぴったりの67点!教えてくれてありがとう!」


私も言いたくてうずうずしていたから、息せき切って伝えると。


「へー、…やるじゃん」


どうしてか、お褒めの言葉を頂戴してしまった。


エナの時は若干馬鹿にしたようなコメントを投下していたのに、これでは対応に天と地の差がある気がしなくもない。


「わー酷い、うちの事も褒めてくれたって良いじゃん!」


「お前よりこいつは20点も上なんだぞ?しかも平均超えてんだし、労って当たり前だろうが」


思った通り、エナが眉をピクピクと動かして抗議しているのが見えたけれど、完璧、という言葉の代名詞でもある滝口君には叶わないようだった。



「…で、空良は?数学何点だっけ?」


その後、すぐに怒りを鎮めたエナは、そのままの流れで彼氏の方を向いた。
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