あなたの落とした願いごと
田中君の髪色は地毛の黒髪で、髪型にもこれといった特徴はないものの、茶色の丸眼鏡を掛けているから何とか他人と区別する事が出来る。


「…は?」


パンを口に含んだままの滝口君は、首を後ろに反らしていかにも嫌そうな声を上げた。


「だから、福田が呼んでるってば。どうせ告白だろうし、早く行ってきなよ」


田中君の声が、楽しげに笑っている。


「また告白か…諦めない亜美ちゃんも凄いし、それ以上にモテまくる神葉君も凄いよ」


前の席で、エナが息を吐きながら感想を零す。


もしも福田さんが告白するのなら、これで通算3回目。


その動機は前回と同じく“一目惚れ”だろう。


でも、滝口君のガードは非常に固く、頑として首を縦に振らないんだ。



そりゃあ、私も出来る事なら想いを伝えたいけれど、

本当の私をさらけ出したら、きっと全てにおいて取り返しがつかなくなる。



決して遠くない将来、本当に福田さんと滝口君は付き合うかもしれない。


でも、私は唇を噛んで見守る事しか出来ないんだ。


…ああ、これだから叶わない恋なんてしたくなかったのに。



「それもそうだね。滝口君、これで合計3回目だっけ?」


「数えてんじゃねーよ」


切ない気持ちを飲み込んで尋ねると、舌打ちと共にあしらわれた。


どんな顔をしたら良いか分からなくて、曖昧に口角を上げてやり過ごす。
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