あなたの落とした願いごと
「…まあいいや、行ってくるわ」


空良、残りのパン食べんなよ。


そして、やる気のなさそうに立ち上がった彼は空良君にそう言い残し、金髪を掻きながら廊下に出ていってしまった。



すぐに田中君も自席に戻ってしまい、残された私達は無言でお弁当を食べ始める。


「…まあ、女子がこぞって神葉と付き合いたくなるのも分かるけどさ?何だかんだ言ってあいつの家は金持ちだし、滝口家って色んな面で顔が広いからねー」


そんな中、滝口君の机に両肘をついた空良君がぽつりとそう零した。


彼は滝口君の事を1番近くで見守っているからか、その言葉にはやけに重みがあって。


「でも、そんな事を理由にするのは神葉君が可哀想だよ」


それに対し、エナが正当な意見を投下した。


「そうだけどさ。あいつの家って、元はこの辺一帯の大地主だったんだよ。神社以外にも土地持ってるし、忘年会とか新年会には市長とか地元の有名人も挨拶に来んの」


「えっ、滝口君の家って此処の大地主だったの?」


滝口君、どれだけハイスペックなの。

肩書きが凄すぎて、もう頭が上がらないよ。


べらべらと衝撃の事実を伝えてきた彼に対し、私はお弁当を食べる手を止めて聞き返した。


滝口家と面識のある有名人を指折り数えていた空良君は、そうだよ、と当たり前のように頷いた。
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