あなたの落とした願いごと
…せめて、滝口君が何色が好きか聞いてくれば良かった。


まあ、それを聞いたところで鼻で笑われて終わる事は目に見えているのだけれど。


私達は、終業式を最後に今日まで一度も全員で集まっていない。


エナと空良君は、空良君の補習が終わった後に何度かデートをしたと聞いた。


けれど、対する私は部活と文化祭準備、登校前のお参り以外でほとんど外出をしていなかった。


私達のクラスは2学期の文化祭で“シンデレラ”の劇を行うから、その準備に勤しんでいたのだけれど、部活がオフの日はバラバラだから、4人が教室で顔を合わせる事はなかったんだ。


夏休みの思い出と言って思い出せるのは、ほぼそれだけ。


何せ、顔を覚えられない私が街中で同級生と遭遇した場合、彼らは確実に私服で髪型も変えているから、その人物の名を当てる難易度は急上昇するんだ。


待ち合わせをしたとしても相手を見つけられないし、それ以上に、そんな緊張感しかない環境にわざわざ自分を落とし込むのは気が滅入る。


だからこそ、今日という日は私の中でも特別で、何日も前からカウントダウンをする程に楽しみにしていた。



「でもさ、浴衣…。エナ、代わりに決めてくれな」


「何言ってんの?神葉君とのデートに着てく服くらい自分で決めなさいよ」


どうしても即決出来なくて泣く泣く助けを求めたら、言い終わらぬうちから言い返された。
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