あなたの落とした願いごと
「ミナミ、」


彼は、確かに私の名前を呼んだのに。


「…?」


滝口君の背中側から、誰かが彼の浴衣を引っ張ったのが見えた。


「え?」


その声は、私と彼のどちらが出したものなのか。


滝口君は私から目を離し、その誰かの方を向く。


そのタイミングで、花火大会の閲覧席を狙っているらしい人達が、一気にこちらに向かって突き進んできて。


(っ!?)


先程まで目の前にあった目印の金髪が、大勢の人が壁になったせいで雲隠れする。


「滝口君…!」


人波にのまれ、何がどうなっているのか分からない。


下駄を履いた足は誰かに踏まれるしよろけるし、人々の顔は当たり前にのっぺらぼう。




「っ、」


それから十数秒後、若干人集りが少なくなった屋台の間の道に残された私は、愕然と目を見開いて立ち尽くした。


何故なら、


目の前に居たはずの滝口君が、忽然と姿を消していたから。


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